主任教授メッセージ

化学科への招待

化学は、原子の多様な組み合わせから新しい物性をもつ物質を生み出すことで、人類社会に大きく貢献してきた学問です。化学には、他の学問に比べて優れた特徴があります。それは、物質の基本単位の素粒子や宇宙の創始を解明する物理学や、生き物の多様性や生命起源を解明する生命科学に比べると、学問の発展によって化学の命題自体が高度化する点です。化学は元素の周期性の発見を飛躍期として、数学、物理学の叡智を集めて分子の電子状態を波動関数として表現できるようにし、分子合成の方法論は膨大なライブラリーが充実し、化学合成の対象はより複雑な化合物へと発展を遂げてきました。さらに、化学の発展は、衣食住はもとより、電子材料や光学素子はもちろん、生命科学に現象論を超えた分子レベルの理解を与え、化学を使った生命現象の活用や製薬をはじめとする医療分野へと貢献の幅を広げています。このように、化学はいつの時代も新しい面を切り出して人類社会に豊かさをもたらし、さまざまな分野に重要な視点を与えるセンタープレイヤーです。この化学の真髄は、場当たり的な学びでは会得できません。とりわけ、自然科学の発展のスピードが速い現代において、力量ある基礎学力は、普遍性と課題適応性の両面にとって、広く張った根になるため、太い幹となるために極めて重要です。基礎学力によってこそ本質的な応用が柔軟に図られ、社会に求められるブレイクスルーが可能となるのです。

化学科では、世界の最先端で活躍できる実力の醸成をモットーに、教育では真の基礎学力の学習に力点を置き、研究では絶えず変化する人類社会の命題に果敢に取り組める国際レベルの環境を整え、充実した教育と研究のプログラムを実践しています。一流の研究者でもある化学科の教員は、基礎学力が何であるかを熟知しており、しかも、わかりやすく教育するにはどうするかについてたゆまぬ努力を重ねて、化学科の学生さん一人ひとりに向き合っています。化学科では、1学年40名の学生さんと20名ほどの教員が一体となってワクワクしながら化学の醍醐味を一緒に楽しんでいます。これからも面白い化学を志す仲間がさらに増えること願っています。さあ、化学で人類社会の幸せをさらに前に進めましょう。

慶應義塾大学 化学科主任教授
中嶋 敦